証券会社での無理な新規開拓ノルマに疲れ果てる
私は以前、証券会社の営業として働いていました。
新入社員として入社したため、最初に与えられた課題は新規開拓。
担当エリアに飛び込み営業と電話営業で端から端まで虱つぶしをしながら運用商品をご購入くださるお客様探しに奔走しました。
しかし、私が勤めていたのは都心のど真ん中で自分の所属する会社の他支店までも数キロ以内、他のライバル証券会社も何支店も近隣にあるようなエリアで新規開拓をするのは至難の技でした。
興味がある人であれば営業から働きかける前に自分で投資を始めているでしょうし、私たちが案内するような商品は手数料も高いことからお客様へのメリットも必ずしも高いとは言えないものも少なくありませんでした。
そんな、売り出しにもった商品に自信がもてないまま、当てもなく片っ端から営業を行ってもとんとん拍子にお客様が獲得できるはずもなく、ノルマが達成できない日々が続きました。
少しでも突破口を見つけたり、契約してくださるお客様を得られたとしてもノルマに達成していなければ評価されることもなく、毎朝怒鳴られ帰社後も怒鳴られの毎日に仕事のやりがいを見出すこともできず、辞めたいという気持ちが日に日に強まっていきました。
大手証券会社だったため金銭感覚狂い、それが怖くなる
しかし、大手証券会社だったことから、成績を残している人たちは同世代のサラリーマンと比較しても多額の給与やインセンティブが与えられていました。
そのため、飲み会などに行ってもバブル時代のようなお金の使い方をする人が多く、派手な飲み会も多くありました。
日々売っている商品も何千万、何億という単位の言葉が飛び交う中で自分が日々出費する何百円、何千円という単位がちっぽけなものに思えてきてしまい、高額な習い事の契約や買い物にも躊躇しなくなる自分がいました。
自分自身は並大抵のお金しかもらっていないにもかかわらず、周囲から「この業界にいれば成績を残せばきちんと収入として返ってくるから」といった言葉や、「自分で運用すればお金は増えるから」といった言葉に惑わされてしまっていた自分がいたように思います。
先輩や上司たちのお金の使い方を見ていると恐ろしい業界にきてしまったと感じたのを覚えています。
お客様のためにならない営業の仕事に人が信用できなくなる
金の猛者が集まっているような証券業界ですが、とはいえ営業なので、お客様のニーズに沿った提案をすることで何かしらお客様の役に立つことができるのではないか、それが社会全体のお金の循環をよくすることにつながり、経済の活性化にもつなげることができるのではないか、そんな思いを持って入社しましたが、現実はそううまくはいきませんでした。
上述のようにノルマが課せられているため、それを達成するためには、必ずしもお客様の最善ニーズに沿っていないことであっても何とかうまい表現で違う商品に乗り換え契約をして頂いたり、会社側が捌かなければいけない商品をおすすめしたりと、自分が提案したいものと会社が提案しろと押し付けてくるものの狭間で板挟みになっていました。
営業とは本来、お客様に喜んでいただくものであるはずなのに、その提案ができていない、しかも100%の真実を知らされているわけではないお客様にとってそれが良い提案なのか悪い提案なのかも判断することができない、そんな状況を見ていく中で本当に自分は正しいことをしているのだろうかという疑問にぶち当たりました。
長年勤めている先輩や上司を見ていると、そうは言ってもお客様の資産がマイナスになるわけではないんだから気にすることない、と軽くあしらわれてしまい、淡々とお客様への提案をこなしている人たちが目の前にいました。
お客様を商品を売るためだけの道具のようにしか扱っておらず、そこに心が伴っていないことを感じてしまった瞬間、この業界に長く身を置いていては心の感覚が麻痺してしまうと鮮烈に思ったことを今でも覚えています。
お金のためなら何でもするような人間にはなりたくない、そう思った瞬間、自分がお客様に対して良い提案ができているのだろうか?と問いかけられるだけの心が自分に残っているうちに、転職をしようと決めました。
確かに引き継ぎの顧客などがいたり、贔屓のお客様がいたりする営業員にとっては成績を残すことができ、それに見合うだけの給与がもらえて稼げる職種かもしれません。
しかし、それと引換に失うものはあまりにも大きすぎる代償でした。
心を無にし、人間としての温かさや感情といったものを失うことだけは避けたい、そう思ったときに会社を辞めたいと強く思うようになりました。
入社したての頃は会社に染まっていなかった同期たちも、そのまま働き続けている人たちは今や少しずつ会社に染まり、人を紹介したり商品を買ってくれないかと持ちかけてきたりとしてきています。
人間関係を壊しかねない付き合いを自分がしてしまう前にこの業界から足を洗って本当に良かったと思います。